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最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)999号 判決 1999年4月22日

上告人

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

山崎潮

外五名

被上告人

山口県信用保証協会

右代表者理事

綾塚幸徳

右訴訟代理人弁護士

塚田宏之

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人増井和男、同五十嵐義治、同都築政則、同海老原明、同橋本昌純、同榎戸道也、同大日南宣彦、同高市俊雄、同下田義人の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。

1  被上告人は、防府興産株式会社の所有する第一審判決別紙物件目録記載1ないし4の物件につき、極度額を五〇〇〇万円とする根抵当権の設定を受け、平成三年八月二七日、根抵当権設定登記を経由した。

2  被上告人は、山口地方裁判所に対し、右不動産について右根抵当権の実行としての競売の申立てをし、同裁判所は、平成四年八月四日、競売開始決定をした。

3  上告人(所管庁山口社会保険事務所)は、右競売手続において、平成四年一一月二五日、健康保険料等の公課につき交付要求をしたが、その額は、法定納期限を平成三年二月二八日から同年七月三一日までとするものが二〇八万二〇〇〇円、法定納期限を同年九月二日から平成四年九月一七日までとするものが二二六二万一六二一円であった。

4  上告人(所管庁山口労働基準局)は、右競売手続において、平成四年一二月二四日、法定納期限を平成三年五月一五日とする労働保険料等の公課一〇九万三六七三円につき交付要求をした。

5  右競売手続において、まず、同目録記載3及び4の不動産が売却され、山口地方裁判所は、平成六年二月一四日の配当期日において、手続費用を除いた配当すべき額一五三〇万八七二二円につき、(一) 被上告人に対し、根抵当権の被担保債権について一二一三万三〇四九円を、(二) 上告人(山口社会保険事務所)に対し、法定納期限を平成三年二月二八日から同年七月三一日までとする公課について二〇八万二〇〇〇円を、法定納期限を同年九月二日から平成四年九月一七日までとする公課について一〇九万三六七三円をそれぞれ配当する内容の配当表を作成し、右配当表どおりに配当を実施した。健康保険料、労働保険料等の徴収は国税徴収の例によることとされているところ(健康保険法一一条ノ四、労働保険の保険料の徴収等に関する法律二九条)、右配当は、国税徴収法二六条の規定の準用により、(1) 公課の法定納期限等と根抵当権設定登記の日の先後を比較し、被上告人の根抵当権設定登記の日に先行する日を法定納期限とする上告人(山口社会保険事務所)の公課二〇八万二〇〇〇円と上告人(山口労働基準局)の公課一〇九万三六七三円の合計三一七万五六七三円に相当する金額を公課に充てるべき金額の総額、その余を私債権に充てるべき金額の総額とし(同条二号)、(2) 公課相互間では、交付要求先着手により優先する上告人(山口社会保険事務所)の公課に全額を充て(同条三号)、(3) 私債権相互間では被上告人が他の私債権者に優先するから、被上告人の債権に全額を充てる(同条四号)との処理をしたものである。

6  次いで同目録記載1及び2の不動産が売却され、山口地方裁判所は、平成六年七月八日の配当期日(以下「本件配当期日」という。)において、手続費用を除いた配当すべき額一四九三万六三六五円につき、(一) 被上告人に対し、根抵当権の被担保債権について一三八四万二六九二円を、(二) 上告人(山口社会保険事務所)に対し、法定納期限を平成三年九月二日から平成四年九月一七日までとする公課について一〇九万三六七三円をそれぞれ配当する内容の配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。本件配当表は、前回の配当と同様に、国税徴収法二六条の規定を準用して、まず、公課の法定納期限等と根抵当権設定登記の日の先後を比較し、被上告人の根抵当権設定登記の日に先行する日を法定納期限とする上告人(山口労働基準局)の公課一〇九万三六七三円に相当する金額を公課に充てるべき金額の総額、残額を私債権に充てるべき金額の総額とし、次いで、前者については公課相互間で交付要求先着手により優先する上告人(山口社会保険事務所)の公課に充て、後者については私債権相互間で優先する被上告人の債権に充てることとして作成されたものである。

7  被上告人は、本件配当期日において、本件配当表の記載のうち、上告人(山口社会保険事務所)に対する配当の全額について異議の申出をし、本件配当異議の訴えを提起した。

二  原審は、右事実関係の下において、同一の不動産競売事件において不動産が順次売却されてその都度配当がされる場合に、私債権に優先する公租公課につき優先権を反復して行使することは、担保権を有する私債権者の予測可能性を侵害し、国税徴収法一五条、一六条の規定の趣旨に照らして許されないと解すべきであるから、上告人(山口労働基準局)の公課一〇九万三六七三円が再度私債権に優先することを認めて作成された本件配当表には誤りがあるとして、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消し、被上告人の請求を全部認容すべきものと判断した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

同一の不動産競売事件について、不動産が順次売却されてその都度配当がされるなど、配当手続が数次に及び、先行する配当手続で国税及び地方税等と私債権とが競合したことから国税徴収法二六条の規定による調整が行われた場合において、私債権に優先するものとして国税及び地方税等に充てるべき金額の総額を決定するために用いられながら(同条二号)、国税、地方税等相互間では劣後するため(同条三号)、現実には配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続においても、同条二号(地方税法一四条の二〇第二号)の規定ないし国税徴収法一六条等(地方税法一四条の一〇等)の規定の適用上再び私債権に優先するものとして取り扱われることを妨げられないと解するのが相当である。けだし、国税及び地方税は、強制換価手続において他の債権と競合する場合には、別段の規定がない限り、すべての公課その他の債権に優先するものであり(国税徴収法八条、地方税法一四条。租税の一般的優先の原則)、国税徴収の例により徴収される公課も、国税徴収法八条の規定の準用により、別段の規定がない限り、私債権に優先するところ、現行法は、国税、地方税等と担保権の設定された私債権との調整を図るために、国税徴収法一六条等(地方税法一四条の一〇等)の規定を置いて、私債権が優先する場合を定めているものの、国税徴収法二六条を適用したことにより国税、地方税等が再度私債権に優先する結果になることを制限する趣旨の規定を置いておらず、右別段の規定がない以上、租税の一般的優先の原則が適用されると解すべきだからである。そして、公課の徴収につき国税徴収法二六条の規定が準用される場合についても、右と別異に解すべき理由はない。

これを本件について見るに、本件配当表に関し、上告人(山口労働基準局)の公課一〇九万三六七三円の法定納期限は被上告人の根抵当権設定登記の日に先行するから、右同額は公課に充てるべき金額の総額となり(同法二六条二号)、これは公課相互間で優先する上告人(山口社会保険事務所)の公課に充てられることになる(同条三号)。

四  そうすると、上告人(山口社会保険事務所)への配当を認めた本件配当表を違法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に述べたところからすれば、本件配当表の変更を求める被上告人の本訴請求には理由がなく、これを棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井嶋一友 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

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